子ども食堂取材 びっくり食堂ナナカフェ(岐阜県岐阜市)

食堂名びっくり食堂ナナカフェ
開催日時定休の火曜日を除いて毎日。モーニングは午前8時~同10時半。ランチは午前11時~午後2時。不定期で学習支援や母親向けの無料お茶会なども実施
場所岐阜市河渡(ごうど)3丁目22の1
費用モーニングは幼児無料、小学生~大学院生100円、大人300円。ランチは幼児無料、小学生~大学院生300円、大人500円。だれでも利用可。学生は学生証を提示
電話番号058ー213ー6686
メールアドレスsense01100110@yahoo.co.jp
代表 川又新一さん

▼名前通り「びっくり」あちこちに

 「子ども食堂を始める時、周りのみんなから『ばかじゃないの』と言われましたよ。家賃と水道光熱費で月50万円かかりますもの」。代表の川又新一さん(55)(岐阜市在住)は開口一番、びっくり食堂ナナカフェの現状を笑い飛ばすように話した。何が「びっくり」なのか。川又さんが言う通り家賃など毎月のコストはもちろんのこと、料理の味と料金の安さ、開催頻度、川又夫妻の波乱に満ちた経歴など、びっくり満載の子ども食堂なのだ。

 東京都出身の川又さんは高卒後に割烹料理屋で修行して20歳代半ばに借り入れをして都内に自ら料理屋を開いたが、数年後に放漫経営で借金を残して店を潰した。知人宅に身を寄せるなどしたが、30歳過ぎる頃には約3年間、橋の下に風よけの段ボールを置いて過ごすホームレス生活をし、「世捨て人のようになった」。ボランティア団体が弁当を配りに来てくれるなどして命をつないだ経験が、今の子ども食堂の活動のベースになっている。

厨房でモーニングセットをつくる川又さん

 30歳代半ばを迎え、教会のシスターから励ましの声をかけられ、人生をやり直したいと思うようになった頃、料理屋時代から世話になっていた知人が「中国の内モンゴルに店を出すからやって」と声をかけてくれ、即引き受けた。現地では珍しい日本のカレーや唐揚げ、ハンバーグなどを出す食堂の店長をこなし、その後、現地にある大学の食堂で店長も任された。そこで知り合い数年後に結婚したのが、妻・韓斯琴(カンスーチン)さん(47)だ。

「びっくり食堂ナナカフェ」の入口に立つ川又夫妻(右の2人)とボランティアたち
厨房で食事提供の準備をするボランティアスタッフら(23年9月17日撮影)
スタッフがモーニングセットをテーブル席へと運ぶ。おにぎりやみそ汁はおかわり自由
大にぎわいの店内。入口付近(写真手前)には席が空くのを待つ人が並ぶ

 韓さんは幼少期、大草原のゲルに住み、馬や牛に乗って遊んだ。育った環境は異なるが、川又さんが慢性腎不全で週3回の透析を受ける必要が出たため、医療体制を考えて夫婦で日本に住むことにし、愛知県一宮市でカフェを開いた。コロナ禍になると持ち帰り需要も見込んでうなぎ屋を併設。店を現在地に移し、2021年5月からは子ども食堂と名乗って月2回、弁当の無料配布を予約制(各回50~100食)で始めた。川又さんは「体調からいつお迎えが来てもおかしくないと思い、社会にお返ししないままではいけないと思った」と動機を語る。

道路沿いの敷地にそびえるナナカフェの看板

 22年10月に非営利の事業主体「一般社団法人こども食堂ナナカフェ」を設立して信用力を高め、寄付を得やすくした。23年4月からうなぎ屋の仕事を縮小し、店の看板を子ども食堂の名に変え、火曜(定休日)以外の毎日、モーニングとランチを格安提供している。50席と駐車場26台分がある大きな店だが、入口に順番待ちができ、来店者は平日100人弱、土日200人、月間2500人にのぼる。幼児や支払い困難な人は無料にし、来店者の3割を占める。川又夫妻やボランティアは無償で働き、フードバンクから食材を受け、寄付や各種助成金、売上金を運営にあて、「経済的にギリギリ」(川又さん)が続く。

 韓さんは「今は商売でなく利益を出さなくてよいから、かえって気が楽」と慣れた日本語で明るく話す。店内で子どもが走ったり食事を残したりすると遠慮なくしかる。このため、夫の川又さんは「子どもが体をこわばらせるほど驚くので、びっくり食堂の名前がぴったり」とユーモアをみせる。課題は後継者づくり。「私が倒れても、妻が一人で生活していけるだけのストックはしてある。あとは、私の後継者になってもよいと思う人が現れるような体制にしておきたい」と話した。(23年9月17日取材。文中の年齢は取材時点)

店内にはパン類やコーンフレーク   
などを好きなだけ取れるコーナーがある
ナナカフェのランチ。         
メニューは手に入った食材で決めるという
支払い困難な他の来店者におごるためのチケットも販売。朝食用(200円)と 親子のランチ用(500円)がある。レジ横に掲示され、必要な人が申し出れば活用できる

<執筆者プロフィール> 野矢 充(のや・みちる) 滋賀県甲賀市出身。立命館大学法学部卒業後、30年間読売新聞記者。退職後に名古屋市立大学大学院人間文化研究科博士前期課程修了。現在、名古屋市在住。2021年夏からフードバンク愛知のホームページで「子ども食堂レポート」執筆。著書に「ごみ:拾って楽しめ」(日本語版と英語版)、論文に「憲法改正の国民投票に新聞はどう向き合っているか─朝日・毎日・読売の比較から」(名市大大学院紀要に掲載)がある。