子ども食堂取材 あすなろクラブ(名古屋市熱田区)

団体名あすなろクラブ(名古屋市熱田区)
開催日時毎週水曜日午後5~9時(登録者のみ)。予約不要の屋台形式の子ども食堂は約3か月に一度、不定期で開催
場所名古屋市熱田区旗屋町509 想念寺
対象者毎週水曜日は市内に住む原則ひとり親家庭の小学3年~中学3年の登録者。約3か月に一度の子ども食堂参加はだれでも可
費用水曜日は市の業務委託で実施するため、参加無料。約3か月に一度の子ども食堂は中3までの子ども100円、大人500円
電話番号
メールアドレス
052・671・8639(想念寺)
sounennji@gmail.com

代表 渡辺観永さん

▼子どもの居場所づくりに奮闘

 名古屋市の熱田神宮そばに位置する想念寺で、第22代住職の渡辺観永さん(56)と妻由美さん(55)が2018年から始めた子どもの居場所「あすなろクラブ」(渡辺代表)は、ひとり親家庭を支援する事業として、名古屋市から業務委託を受けて続けてきた。子どもたちに食事も出すが、家や学校とは別の第三の居場所づくりが目的で、食事に力点を置く一般的な子ども食堂のイメージとは異なる。子ども食堂の枠外にみられることが多く、当初はボランティアや寄付の支援を得にくく、「孤独な活動だった」と夫妻は口をそろえる。

 活動は大きく分けて2つある。メーンは毎週水曜日午後5時から9時まで、約15人の子どもたちの「居場所」づくりだ。参加登録者の8割は、市の子ども支援部署から紹介されてきた小中学生だ。配布したチラシを見て申し込んでくる子どもは全体の2割に過ぎない。

1年目は週2回実施し、食事の調理は由美さん一人でこなした。2年目から週1回に減り、夏休みだけ週2回行う。

あすなろクラブののぼりを入口に立てる渡辺さん

由美さんが所属する更生保護女性会の会員らが調理ボランティアに参加してくれるようになり、負担は少し軽くなった。子どもたちに食事を提供すると、「今日初めてごはんを食べる」と言う子がいて、夫妻は驚いたという。床にポロポロとおかずや米をこぼす子や、異常な量を食べる子もいた。辛い味や濃い味しか好まないケースもあった。子どもの何気ない言葉で、家庭の困窮や虐待を知ることもできた。渡辺さんが何気なく自分の頭に手をやっただけで、たたかれると誤解し、とっさに防御姿勢になる子も。子どもを送迎する親は立ち入りを控えてもらい、子どもたちには食事や勉強、カードゲーム、会話などをして気楽に過ごしてもらっている。

 もう一つの活動は、市の事業とは別で、20年秋から3~4か月に一度、寺の駐車場で開く縁日形式の「子ども食堂」だ。企業・団体などのスポンサーを見つけ、費用確保にめどがつけば開催する。来場者の予約は不要で、大抵200~300人が訪れ、子どもなら100円だけ払えばハンバーガーといった500円相当の食べ物が会場で食べられる。

水曜日に寺の調理場で子どもたちの夕食の用意をするボランティアスタッフら
食事部屋で、子どもたちの夕食を器によそうスタッフたち
肉じゃがやミートボールなどの夕食
(2023年6月14日)
夕食の後にカード遊びをして過ごす参加者たち

 渡辺さんが子ども支援活動をする素地は、先々代と先代住職が困窮家庭を支援していたのを見聞きしたことが大きい。自身は09年に住職となり、11年の東日本大震災後は世の中を盛り上げる一助にと、寺でコスプレファッションショーなどのイベントを開催。人前に出るのが苦手だった若者が明るくなり、夫妻のモチベーションを上げた。若者支援に前向きな寺に対し、市の居場所モデルにエントリーするよう関係者から声がかかり、今に至る。

 認知度は徐々に上がり、個人から野菜などの寄付も受けるようになった。団体や企業はスポンサーについてくれ、今や孤独な活動でなくなった。フードバンク愛知で受け取るカップ麺などの食料は学校給食のない時期のフードパントリー用に重宝しているという。

渡辺さんは「市の業務委託がいつまで受けられるのかわからないが、たとえ事業から外れても、何等かの形で活動を続けたい」と話す。一方、由美さんは「これまではコロナ禍で実現が難しかったが、子どもたちと一緒にここで調理をし、子ども自身が家で食事を作れるようになればと思う」と課題を挙げた。(23年6月14日取材。文中の年齢は取材時点)

子どもたちを見守る渡辺夫妻。部屋の棚には自由に読める漫画本も並ぶ
毎週水曜日夜には登録している約15人の子どもが食事を共にする

<執筆者プロフィール> 野矢 充(のや・みちる) 滋賀県甲賀市出身。立命館大学法学部卒業後、30年間読売新聞記者。退職後に名古屋市立大学大学院人間文化研究科博士前期課程修了。現在、名古屋市在住。2021年夏からフードバンク愛知のホームページで「子ども食堂レポート」執筆。著書に「ごみ:拾って楽しめ」(日本語版と英語版)、論文に「憲法改正の国民投票に新聞はどう向き合っているか─朝日・毎日・読売の比較から」(名市大大学院紀要に掲載)がある。